食品催事のバイヤーと聞くと、華やかで楽しいイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。実際は、何年もの間、出店業者のもとへ数多く足を運び、物産展で実現したい「この商品をお客様に届けたい」という強い想いなどをご説明にあがり、ようやく出店を承諾いただけるケースも多々あります。また、出店業者同士での長年の絆や、出店業者さまと京王百貨店との絆により生まれる復刻商品や新商品など、物産展の裏にはさまざまなドラマがあります。本記事では、その一部をご紹介します。
地域とお客様をつなぐ物産展
京王百貨店では、『大北海道展』をはじめ、多数の物産展を開催しています。
日本各地のお取引先との絆を先輩たちから受け継ぎ、大切にしてきた結果、今も多くのお取引先にご出店いただけているほか、新規のお取引先とのご縁にもつながっています。
中でも、お取引先との絆を強く感じた記憶に残る催事は、2024年1月開催の「石川・福井 物産と観光展」です。2024年1月1日に発生した「能登半島地震」。開催までわずか2週間前の出来事であり、京王百貨店の催事担当者は出店予定のお取引先の安否確認を急ぎました。
「『石川・福井 物産と観光展』については、決行すべきなのか中止すべきなのか社内でも何度も協議されましたが、最終的には『応援』『支援』のためにも開催するという判断に至りました。予定通りに開催することができたのは、自身が困難な状況にありながらも会場に駆けつけ出店してくださったお取引先の皆さまのおかげです。蓋を開けてみれば、催事を通して支援できることに対しお客様から感謝のお言葉を多数いただいき、改めて『物産展』の役割と意義を強く感じました。」と、横山和正さん(食品・レストラン部 催事担当 課長)は当時を振り返ります。
会場ではお取引先同士が無事を確かめ合う姿が見られる中、お客様からも温かい言葉を多数いただき、2024年1月開催の「石川・福井 物産と観光展」は来場者数も過去最高となり、多くの寄付金が集まったほか売上の一部も被災地へ寄付することができました。
未来へつなぐ駅弁大会
新宿店開店の翌々年から毎年欠かさずに開催している「駅弁大会」。駅弁という文化を残していくために、駅弁ファンのみならず、駅弁に馴染みの薄い若い世代にも、駅弁の魅力を知っていただきたいという想いから、60年以上もの間、何代ものバイヤーたちが知恵を絞り新しい企画を投入することで、常に鮮度があり、新しい発見が得られる催事へと成長するように励んできました。時には、廃線に伴い販売されなくなった駅弁を期間限定で復刻する『幻の復刻駅弁』や、人口減少で厳しい業績に悩むローカル線を応援するための『がんばれ!ローカル線』など、各地の事業者を応援する企画を多数実施してきました。
例えば、2023年1月開催の第58回大会では、駅弁業者の絆による「復刻出店」として「いちご弁当」が登場しました。もともとは岩手県宮古市の割烹「魚元」が製造・販売を行っていたいましたが、東日本大震災後、さまざまな理由から廃業となり、「いちご弁当」は幻の駅弁となってしまっていました。
京王百貨店の駅弁大会で人気駅弁「牛肉どまん中」を販売する、米沢の駅弁調製元「新杵屋」が魚元の名物弁当「いちご弁当」のレシピを引き継ぎ、期間限定で復刻販売しました。「魚元」は過去の駅弁大会に20年近く出店した実績をもっており、同じ東北の駅弁業者である「新杵屋」とは旧知の仲になっていたとのこと。強い絆でつながる両社だからこそ、魚元の味を守り復刻することができた駅弁です。
※画像は2023年1月開催時の折込チラシです。
2026年1月開催の「第61回大会」でも業者間の絆によって生まれた駅弁があります。それは、宮城県の水産加工メーカー「歌津小太郎」が初挑戦した駅弁「翡翠あわびと南三陸あわびの饗宴」です。
※画像は2026年1月開催時の折込チラシです。
横山課長が訪れたアワビの養殖場。山林火災により養殖場へ海水を流す管が黒焦げに。
京王百貨店での駅弁大会中、「翡翠あわびと南三陸あわびの饗宴」は、宮城県 気仙沼線BRT/志津川駅の「南三陸さんさん商店街」にて販売されました。
新規事業を応援!
自然災害のほかにも、コロナ禍における外出規制は、商業施設のみならず多くの飲食事業者に深い爪痕を残しました。全くと言っていいほど売上が立たない中、事業の存続とこれからの未来に向けて新たな事業を生み出したお取引先がありました。
「駅弁大会でのお取引先の1つである『松浦商店』さんが『マツウラベーカリー』という新事業を立ち上げていることは知っていましたが、今までパンが実演のメインとなる催事がなかったため、お声掛けできずにいました。2026年5月に新しい食品催事『スイーツ&パン博』を開催することが決定し、すぐにお声がけさせていただきました。コロナ禍による駅弁需要の低迷を乗り越えるため、創業100周年を迎えた2022年に新たな挑戦として立ち上げたカレーパン専門店が、かくも斬新な見た目の商品を提供しているとは!という驚きを、当社の駅弁マニアのお客様にも知っていただきたく出店をご依頼しました。」佐藤雅一さん(食品・レストラン部 催事担当 バイヤー)
「駅弁事業で培った食のノウハウを活かして『冷めてもおいしい』カレーパンの開発に至りました。箱の中に納まった行儀のよい駅弁とは対照的に、名古屋城のしゃちほこのように思いっきり海老が立ちそびえるカレーパンなど、駅弁と差別化を図りながら、食品事業の継続存続をかけるために思い切った新しさのある事業を始めました。ロゴも親しみやすく現代的なデザインが出来上がり、お客様からの反応も上々でした。」天野 清文さん(マツウラベーカリー 営業本部 営業開発G部長)
もう1店舗、コロナ禍での逆境を機に新たにベーカリー事業を立ち上げたお取引先に「スイーツ&パン博」に出店いただきました。それは四谷で旅館を営む「旅館 栄進館」さんです。旅館やホテルは、コロナ禍で最も多くの影響を受けた業態の1つです。しかし、そんなどん底の中、もともと旅館業として朝食のパンを焼き上げるための釜があり、パンを焼いていたことから、他にはない特徴商品を作ろうと奮起し、2021年1月に生まれた現在の看板メニューが「きなこバターパン」です。
「初めて栄進館さんを知ったのは他店の催事視察がきっかけです。多くのお客様が行列をなしていて注目されていたためお声掛けし、看板商品誕生のストーリーを伺い、応援したい気持ちでいっぱいになり、出店依頼をさせていただきました。」佐藤さん(食品・レストラン部 催事担当 バイヤー)
「コロナ禍は、本業の旅館が宿泊者の大幅減少で長期的に厳しい中で、何かやらなければならない!と、日々、知恵を絞っていました。その中で目に付いたのが、旅館の朝食用パンを焼くためのオーブンと、パンを焼く技術です。すでに持ち合わせているものを活用して、何か他にはない、独自性のある商品を生み出そうということになり、結果『きなこバターパン』という看板メニューが出来上がりました。最初は地元住人の方々にご購入いただき、気付けば口コミなどで人気商品に成長していました。宿泊客でなくても、四谷の店でご購入いただけますので、ぜひ!」鴨田知明さん(旅館 栄進館 取締役社長)
「個人的には新しいものが大好きです。自分自身が手掛ける催事が『初開催』、『初企画』といったものが多いため、せっかくならば、話題性もあって、新しい商品やお取引先をご紹介して、お客様に商品や店舗との出会いを楽しんでいただきたいと考えています。そのため、『スイーツ&パン博』では、2店舗の新規事業にご出店いただけたことを非常にうれしく思っています。」佐藤さん(食品・レストラン部 催事担当 バイヤー)
これからも、未来へ向けて
物産展は、全国各地のおいしいものを集め、お客様に楽しんでいただく場である一方、その土地で商品をつくる人、事業を守り続ける人、そして新たな一歩を踏み出そうとする人たちの想いを届ける場でもあります。災害やコロナ禍など、思いもよらない困難に直面した時も、出店業者同士のつながりや、お客様からの応援が次の一歩を踏み出す力になってきました。そして、そこに寄り添い、出店者とお客様をつなぐのが、私たち京王百貨店の、そして物産展バイヤーの役割です。
「物産展にいらっしゃった方の多くが、現地に赴き、あの時の味が忘れられなかったと現地のお店に足を運んでくださり、SNSなどに投稿してくださっているのを見ると、催事担当者としては特にやりがいを感じます。これからも、まだ知られていない地域の魅力や、事業者の皆さまの挑戦に耳を傾け、『この商品を、この人たちを、お客様に知ってほしい』という想いを大切にしていきたい。新しい出会いを生み、地域の未来につながるきっかけをつくる――そんな物産展を、これからも皆さまと一緒につくっていきます。」と横山さん(食品・レストラン部 催事担当 課長)